【インタビューの経緯】

自立学実践研究所では、毎年、東京都にある就労移行支援事業所(以下、就労移行)の調査をしています。調査を始めた経緯としては、就労移行の質について、問題意識を持っていたためです。就労移行の質には「支援者」「プログラム」「事業所運営」の三つの視点があります。「支援者」と「プログラム」の質は、直接事業所に伺いヒアリングをしなければならないので、その調査は諦めました。

「障害福祉サービス等情報公表制度」が平成30年4月に施行されたため、各福祉サービスの事業所には情報公開の義務があります。「事業所運営」の質については、ある程度インターネット上でデータ収集が可能なため、調査を実施しました。就労移行の運営のデータは以下のサイトから取得しました。

上記のサイトからデータを取得して、就労移行の「事業所運営」の定量化を目指しました。各事業所を0ポイントから13ポイントで評価をしています。

評価尺度は以下の通りです。評価の尺度の開発については有識者3名に相談をしました。

 

今回、就労移行の「事業所運営」の質で一番ポイントの高かったのは、「LITALICOワークス蒲田」さんでした。「LITALICOワークス蒲田」さんには、就労移行Award2024ということで表彰をさせて頂きました。

 

 

加えて、LITALICOワークス蒲田のセンター長の酒井成秀さんには「支援者の質について」のインタビューを実施しました。

LITALICOワークス蒲田のホームページ

*インタビューの内容について、就労移行で働く支援者を「スタッフ」、就労移行に通所している利用者を「メンバー」と表記

 

 

【酒井さんが考える「支援者の質」で大事なことを教えて下さい】

就労移行に従事するスタッフで最も大事なところは、「スタッフ本人の心身が安定していて、健康に保たれている状態であること」だと思っています。メンバーさんの前ではお伝えしないんですけど、メンバーさんにとって1番身近にいる就労者って、我々「スタッフ」なんですよね。なので、1番身近で働いている我々が、「つまらなさそう」「辛そう」「しんどそう」にしている姿を見せてしまうと、結果的に「就労ってこんな大変なことなの?」っていうイメージにも繋がりかねません。1番身近な就労者は我々だと考えた時に「働いていて楽しいと思える環境を作る」「心身の安定を図っていくこと」がすごく大事だと思っています。そのために、センター長という立場からも、やはり「スタッフのケア」は日々意識していかなければなりません。メンバーさんの支援に対するスタッフ同士のやり取りも大事ですが、いかにスタッフが気持ちよく、向上心持って楽しく働ける職場の環境作りを考えていくのか、というのは私個人として、すごく大事にしている部分です。

 

【「支援者が気持ちよく、向上心持って楽しく働ける環境作り」が大事と気づいたきっかけはなんでしょうか?】

日々支援をしていると、スタッフ自身が疲弊や苦悩を感じて、自分自身を追い詰めてしまうことがあります。そして、結果的に日々メンバーさんと接している中で、スタッフ自身も影響を受けてしまって体調を崩してしまうこともあります。そこでスタッフ自身の心身の安定が大事だと感じました。加えて、事業所の中でも人間関係というものは生じるので、そこで体調を崩す方もいます。そうなると、最悪、退職、あるいは、休職をせざるを得なくなることがあります。メンバーさんからしてみれば、それまで信頼を置いていたスタッフさんがいなくなるので当然不安感が募り、体調悪化にも繋がってしまいます。この負のスパイラルは、割と生じやすいんだなっていうのを管理者をして初期の段階で感じていました。結果的には、メンバーさんのためなんですけど、基盤となるスタッフの心身の健康を維持する大切さをそこら辺で学びましたね。

 

【「支援者の質」において、他にどんなことが大事だと思いますか?】

私はスタッフの方に「メンバーさんとの支援を通じて、自分自身が成長していく気持ちを大切に」とよくお伝えしています。スタッフとメンバーさんって、どっちが上ってわけではなくて、同じ目線であるべきだと思っています。なので、常に同じ目線で、お互いに学び合う関係性が保てるといいですよね。やはり、「教えてあげる」とか「導いてあげる」みたいなスタンスの方ですと、ちょっと温度差が出てきてしまいます。よく「ティーチング」 「コーチング」ってありますけど、「ティーチング」だけでは、自己肯定感を高めようにもできません。同じ目線でリスペクトの気持ちを持って、メンバーさんからも多くの学びを得て、スタッフとして成長していくマインドを持ってる方は、質の高い支援を提供できると感じています。

 

【「メンバーさんからも多くの学びを得て、スタッフとして成長していくマインドを持ってる方」について、それを教えなくても気づける人と気づけない人が存在していると感じています。その差は、何だと思いますか?】

私は、気づけない方というのは、これまでスタッフの方が経てきたご自身の経歴や経験を、しっかりと振り返れてない方だと感じています。そこには、意識的に振り返ってないのか… 無意識で振り返ってないのかは色々あると思うんですけど。今の自分は振り返ることはできても、今までの人生経験を踏まえた長期スパンで振り返りができていないと支援をしていても気づきが浅いですよね。

そういった方々をお見受けした場合は、しっかりと振り返りをするキッカケを作るようにしています。メンバーさんに対してスタッフは、生育歴から今の状態まで、どういう経験をされたのかというところまで、アセスメントを取ります。同様に、スタッフ自身も長期の振り返りをしていくのは大事です。そこには、もしかしたら、しんどい部分があるかもしれません。しかし、改めて、ご自身が経てきた経験を長期で振り返ることで、そもそも、この仕事をやりたいと思ったキッカケを考える時間は重要です。その辺りの部分を一緒に振り返りながら、「あ、そういう気持ちがあったのか〜!」みたいなことを確認していきます。今のスタッフの気持ちだけに焦点を当てるのではなくて、その原点に立ち返るような面談を行うことがあります。ただ、私は「振り返りが大事だよ」っていうのを大袈裟に前面には出しません。あえてさりげなく、面談の時や普段のちょっとした会話のやりとりの中でするようにしています。「これから振り返りやるよ!」みたいな、雰囲気を出すとスタッフも緊張しますよね。管理者の業務として、さりげなくやることを意識しています。

 

【酒井さんはリタリコ内で蒲田以外の事業所にも応援に行くことがあると聞きました。最後に事業所単位の「支援者の質」について教えていただいてもいいですか?】

いいなと感じる事業所でのスタッフの傾向としましては、「積極性がある」 「フットワークが軽い」 「物怖じしない」っていうのは大きいです。「これは管理者がやってくれるだろう」「他のスタッフがやってくれるだろう」っていう他人任せみたいなマインドがあったり、運営や支援の部分に対しても、あまり積極的に関わろうとしない傾向にあるスタッフがいる事業所は、質としてはそんなに高くない気はします。今の話に加えて、支援に関わる知識やスキルであったり、関係機関との連携方法を、すごく熟知している方がいれば、より一層いいですよね。

「積極性がある」 「フットワークが軽い」 「物怖じしない」部分に関しては人間の資質の部分です。当然、そこに個人差はあります。ただ、あまり積極性のないタイプの方が積極性のあるスタッフが多い環境に入った時に、いい意味で周囲からの影響を受けると感じています。積極性やフットワークの軽さを近くで見ていると、自然とその方自身も真似ていくようです。もちろん、フットワークの軽さが時として裏目に出ることもあります。ただ、結果的にメンバーさんの笑顔を目の当たりにした時に、じゃあどちらが良いかと思ったら、「フットワークの軽さ」 「積極性」 「主体性」を自分自身で実感することで、「何かアクションを起こしていくことがより良い支援につながる」と感じているスタッフは多いのかなと思っています。